大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第一小法廷 昭和26年(あ)4270号 決定 1954年3月04日

主文

本件上告を棄却する。

理由

被告人小田直治の弁護人牟田真の上告趣意第一点について。

漁業法六八条は「爆発物を使用して水産動植物を採捕してはならない」と規定している。その立法の趣旨は爆発物のごとき強力な破壊作用を営むものを使用して水産動植物を採捕することを許すにおいては、容易に濫獲が行われ、水産動植物の繁殖を著しく阻害するおそれがあるから、その繁殖を保護する目的をもって漁業の方法を規正するがためにかかる禁止規定が設けられたのである。それ故、魚類の場合においてはこれを捕獲するために爆発物を使用し、魚類を容易に捕捉し得る状態に置くにおいては該魚類は爆発物使用者の支配内に帰属するものということができるから、現実にこれを拾い集めて取得すると否とを問わず、前記規定にいわゆる「水産動植物を採捕」したものと解するを相当とする。されば他人が魚類捕獲のために爆発物を使用して魚類を死に致らしめた場合において、その情を知りながら浮んでいる魚類を拾い集めて所持することは、前記六八条の規定に違反して採捕した水産動植物を所持することに該当し、従って同法七〇条、一三八条六号の罰則の適用を受けるものといわなければならぬ。されば、第一審判決が判示証拠に基き適法に判示事実を認定し、これに対し同法七〇条、一三八条六号を適用したのは正当である。従って、所論は、違憲をいうが、その実質は、右の第一審判決の事実認定又は法令の適用を新らたに当審で非難するに帰し、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。

同第二、第三点について。

所論は、違憲をいうも、その実質は、いずれも、量刑の非難に帰し、これまた、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。また、記録を調べても、同四一一条を適用すべきものとは認められない。

被告人日高弥吉の弁護人鶴田英夫の上告趣意について。

所論は、判例違反をいうが、所論第一摘示の判例は、別個の犯罪事実の立証に供せられた証拠に関するものであるか又は明示的になされない同意に関するものであり、同第二摘示の判例は、告発書に関するものであって、いずれも、本件のような同一の犯罪事実の立証に供せられ、且つ、明示的に同意のあった、実況を見分した状況を記載した逮捕手続書の案件には適切でないし、また、本件記録ことに所論逮捕手続書の記載の内容によれば、所論の指摘する原判決の判示は、当裁判所においても、すべて正当であると認められるから、所論は、結局原判決の訴訟法上の事実認定又は法令の解釈を非難するに帰し、刑訴四〇五条の上告理由として採用することはできない。また、記録を調べても、同四一一条を適用すべきものとも認められない。

よって同四一四条、三八六条一項三号に従い、裁判官全員一致の意見で主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 真野 毅 裁判官 斎藤悠輔 裁判官 岩松三郎 裁判官 入江俊郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例